ゾンビ屋れい也 あおい編3


今日は、あおいを置いて仕事に出なければならない。
蓄えはあるが、平穏にどっぷり浸かってしまうのは性に合わなかった。
「今日は、依頼があるから一人にさせるけど・・・退屈しないように、借りてきた」
れい也は、レンタルショップの袋からDVDを取り出す。
低学年向けの、いたって健全なアニメ集だ。

「ボク、ちゃんとおるすばんしてるよ。れい也お兄ちゃん、いってらっしゃい」
内心、不安感を覚えつつれい也は外へ出る。

数時間程度で終わる依頼であってほしいと願いつつ、依頼主の家へ向かった。
今日の相手はそこそこな裕福層、不幸な事故で亡くした娘の声を今一度聞きたいという依頼だ。
簡単な内容だが、こんな依頼ほどむしろ時間がかかる。
犯人を見つけたい、真意を知りたいといった目的があれば、すぐに終わるのだが
話がしたい、というものは下手をすると数時間に及ぶ。
その分、報酬が増えるからいいのだが、今日ばかりは早めに帰りたかった。

家に一人でいるあおいのことが脳裏にちらつく。
随分と過保護になったもんだと、れい也は密かに苦笑した。


依頼はやはり長時間かかり、終わった頃には日が暮れていた。
自然と早足になり、一目散に帰宅する。
「あおい、ただいま」
部屋からはテレビの音が聞こえていて、大人しくアニメを見ていたのだとほっとする。

「お帰りなさい、れい也お兄ちゃん!」
あおいが、満面の笑みでれい也を出迎える。
何を見ていたのかとテレビを見て、れい也は目を丸くした。
それは予想していた平和なアニメではなく、実写で
制服を着た少年二人がベッドに乗り上げ、抱き合っている場面だった。

「なっ、何見てるんだ!」
れい也は、慌ててテレビを消す。
「お兄ちゃんがくれた箱の中に入ってたよ?」
あおいが差し出した箱は、確かに子供向けのアニメだ。
デッキからディスクを取り出すと、そこには恋愛もののタイトルが書かれていた。
店員が中身を入れ違えたのかと、れい也は慌ててディスクを箱に戻す。

「なんだか、すごく幸せそうだったよ。手を繋いで、ぎゅってして、いろんなところ触ってて」
「そ・・・そうか」
止めていなければ、教育上よろしくない場面が繰り広げられていただろう。
「遅くなってごめん、すぐ夕飯に・・・」
れい也が振り返ろうとしたとき、背に温かみを覚える。
あおいは膝立ちになり、れい也をぎゅっと抱きしめていた。


「・・・あおい?」
あおいは、甘えるようにれい也の首元にすり寄る。
「どうした、寂しかったのか?」
「ん・・・お兄ちゃん」
そのとき、うなじに柔らかな感触が触れる。
それがあおいの唇だとわかると、れい也はぎくりとした。

「あ、あおいっ」
れい也が焦ると、あおいはぱっと離れる。
「ご、ごめんねお兄ちゃん。あの、テレビでこうやってたから、ボクもしてみたいなあって」
これは、レンタル屋の店員にクレームを入れなければならない。
れい也は立ち上がり、あおいと向き合う。


「・・・あれはお話なんだ、物語なんだよ。現実とは・・・違う」
「でも、でもね」
あおいはれい也に至近距離まで迫り、肩を掴む。
「お話でも、すっごく幸せみたいだった。見てるだけでもドキドキして、いいなぁって思って・・・」
あおいは、れい也の手を握り、指を絡める。
肉体に追いつくように、精神が急成長しているのだろうか。
れい也を見る眼差しはうっとりとしていて、まるで恋人ごっこをしているようだ。
恋人つなぎをし、間近で迫られ、れい也は戸惑う。

「だ・・・駄目だ、だって、こういうことは、本当は・・・」
愛し合っている男女が行うもの、と言ってもうまく説明できる自信がない。
れい也が言葉に詰まっていると、あおいはぴったりと身をつける。
そのとき、下半身に当たるものがあってれい也はぎょっとした。

「ボク、変なんだ・・・カゼひいちゃったのかな。ちょっと暑くて、胸のとこがドキドキして・・・」
体の反応が、想いを示す。
れい也に触れている今、あおいはその体温を求めていた。

「あおい・・・そんなに、誘わないでくれ・・・」
理性と本能の瀬戸際で、れい也は堪える。
理性的でありたいのなら、さっさと離れて遠ざかればいいのに足が踏みとどまってしまう。
「お兄ちゃん・・・」
あおいの吐息が、口元をくすぐる。
熱っぽい温度を感じた瞬間、ぷつりと糸が切れていた。
れい也はあおいの後頭部に手を回し、後に引けないようにする。
そして、吐息を感じたその箇所を重ね合わせていた。

「ん、ん・・・」
柔らかな感触に覆われ、あおいはれい也の背に両手を回す。
もっと触れてほしいと求められ、れい也はあおいの隙間を舌先でくすぐった。
反射的にあおいが口を開くと、その中へ自らを進めていく。
あおいの舌に触れ、怯えさせないようやんわりと絡める。

「は・・・ふ、ぁ・・・ん」
あおいは甘い声を出し、崩れ落ちないようれい也にしがみつく。
心音は早まり、下半身のものはさらに存在感を増していた。
ゆったりと交わった後、れい也は唇を離す。
すると、あおいはその場にすとんと座り込んでしまった。

「ふぁ・・・なんだか、ぽわーっとして、力抜けちゃって・・・」
れい也も座り、あおいの背に手を添える。
「あおい・・・横になって」
そっとあおいの胸を押し、ゆっくりと横に寝かせる。
ちら、と下半身を見ると、だいぶきつそうに起立していた。
れい也は、その部分を服の上から優しく撫でる。

「あぁ、ん・・・」
あおいの声は、脳内麻薬のようにれい也を誘惑する。
直に触れて、解放させたい。
れい也は、あおいのズボンに、下着に手をかけ下にずらす。
そして、中の起ちきっているものを掌でおもむろに包み込んだ。

「ふぁっ、ん、ゃ・・・」
れい也に包み込まれ、あおいは高い声を上げる。
始めて触れられ、その部分は悦びを覚えていた。
軽く触れただけなのに、あおいはびくびくと脈動している。
初々しいそんな反応は、さらにれい也の歯止めをきかなくさせた。
れい也はあおいの首元に唇を寄せ、動脈の辺りを舌先で弄る。
同時に、下を指の腹で愛撫すると、あおいはびくりと体を震わせた。

「は、あぁ、ん・・・っ。ボク、何だかおかしいよぅ・・・」
「大丈夫、それが普通だよ・・・」
れい也は、あおいの首筋をじっくりと弄る。
血管をなぞられると特に刺激が強まるのか、たまに体が跳ねた。
首がしっとりと濡れてきたところで、れい也は顔を上げる。
行為はまだ終わらず、次にあおいの耳へ近付いていた。

「お兄、ちゃん・・・お兄ちゃんも、どきどきしてるの・・・?」
「・・・ああ、あおいのに触ってると、ドキドキするよ」
掌から、鼓動や熱が直接伝わる。
あおいの欲を感じていると、自分も同調してしまうようだ。
欲望のままに、れい也はあおいの耳をそっと舐める。

「ひ、ゃ」
また違う個所への刺激に、あおいは一瞬怯む。
けれど、れい也が耳の形をなぞっていくと、うっとりと目を細めた。
その目は、完全に色欲にとらわれている。
それはれい也も同じで、耳を甘噛みしつつ、また下半身の手を動かしていた。

「ひゃあ、んっ、あ、ぁ・・・」
耳の方が弱いのか、快楽が高まってきているのか、あおいの反応がより敏感になる。
甘い声が聞きたくてたまらないと、れい也は執拗に耳の形をなぞる。
あおいのものを掴む手は、もう上下運動が止まらない。

「ああ、んっ・・・あ、おかしく、なっちゃうよ・・・っ」
「安心して、気持ち良くなるだけだから・・・」
れい也の舌が、あおいの中へ侵入する。
内側をなぞられた瞬間、今まで以上にあおいの体が震えた。
そんな反応に、れい也は遠慮なく自身をあおいの中へ進める。
あおいの耳にはれい也の唾液の音が直に伝わり、卑猥な感覚をより強く与えていった。

「ひゃ、あ、あぁ・・・お兄ちゃん、中、だめ・・・っ、あ、ん、ああ・・・!」
内側を責められ、あおいはもう堪え切れなくなった。
下半身からどくりと白い欲が溢れ、れい也の手に散布される。
掌に温かい白濁がかかり、れい也は目を細める。
あおいは顔を真っ赤にして、おぼろげな眼差しを向けていた。
初めての快楽の余韻に浸っている様子に、れい也の体もうずく。

「れい也・・・お兄ちゃん・・・すごく、あつくてね、すごく・・・気持ち、よかった・・・」
「そうか。・・・満足したみたいでよかった」
本当は年端も行かない少年に、性を教えてしまった。
衝動的な行為に、罪悪感がないわけではない。
それ以上に、感じさせたくなった、見てみたくなった。
愛らしいこの相手が、行為に悦ぶ姿を。




数日後、痺れを切らした警察が、とうとうあおいの顔写真を公開した。
もう、大っぴらに外へ出ることはできないし、ここに家宅捜索が入るのも時間の問題だ。
テレビを見て、あおいはそれを察したようだった。

「ボク、本当はとっくに捕まってたんだと思う。
けど、お兄ちゃんがかくまってくれて、いろんな楽しいこと教えてくれて・・・とっても嬉しかった」
れい也は、もう何も言えない。
口を開けば、きっと引き止め、迷わせる言葉が出てきてしまうから。
あおいは窓を開け、縁に足をかける。

「バイバイ、お兄ちゃん。ボク、ずっと忘れないよ」
最後に微笑みを見せ、あおいは窓から出て行く。
れい也の胸には、空白の虚無感が残されていた。


夜になり、虚無感にさいなまれていたさなか、れい也はビルの屋上へ行こうと決めていた。
幸いにも、まだサイレンの音は聞こえない。

「シキ・・・先に行け、あおいに見つからないように」
れい也はシキを呼び出し、ビルに向かわせた。
祈るような気持ちで、階段を上がる。
屋上の扉をゆっくりと開くと、あおいはコンクリートの縁に座り星を眺めていた。

「あおい」
呼びかけると、あおいは目を丸くして振り向く。
「お兄ちゃん、どうして来たの?もうすぐ警察が来るよ。ここ、病院からよく見えるから」
あおいは、捕まる覚悟をしてここに来たのだ。
何よりも、れい也に疑いがかからないように。
遠くから、サイレンの音が聞こえてくる。

「あおい・・・僕と、ずっと一緒にいたいと思うか?」
「うん!そうできたらいいなって思うけど・・・無理だよ」
返事を聞き、れい也は決断した。
サイレンの音は、ビルの下で止まる。

「最後に、抱きしめさせてくれないか」
あおいは微笑み、れい也に飛び付く。
温かな抱擁を交わしたとき、れい也は小声でシキを呼んだ。
あおいの背後から、ナイフを携えたシキが現れる。

階段を駆け上がる音が聞こえてくる。
それが屋上へ辿り着く前に、シキはあおいのうなじをナイフで切った。
鮮血が、噴水のように吹き出す。

「お・・・にい、ちゃ・・・」
あおいの体から、みるみるうちに熱が逃げていく。
足は体を支えられず、仰向けに倒れた。
「百合川あおい、動くな!」
絶命した直後、警官隊が屋上へなだれ込む。
だが、あおいの死体を見て硬直した。


「時間がかかってすみません。依頼通り、ちゃんと殺しましたんで安心してください」
まるで感情のこもっていないれい也の声と表情に、警官は凍り付く。
「・・・ご協力、感謝します。死体は専門部隊が片付け・・・」
「僕はゾンビ屋です。死体はどうとでもできます」
「ですが、解剖が必要・・・」
瞬間、シキがナイフを投げ警官の耳をかすめる。
二体の鬼に気圧され、警官隊は引いて行った。

人の気配がなくなったのを確認すると、れい也は掌の紋章を掲げる。
「魔王サタンよ!この死体を我の僕として蘇らせよ!汝の偉大なる力を持って!」
呪文を告げ、数秒。
あおいの死体がかっと目を開き、ゆっくりと立ち上がった。
地獄から呼び戻され、不思議そうに遠くを見ている。

「・・・あおい、僕がわかるか」
あおいは、視線をれい也に移す。
じっと見つめた後、無言で頷いた。
過去の記憶はおぼろげにあるのかもしれない。
けれど、感情を表に出すことは忘れてしまっただろう。
あおいは辺りを見回し、シキがいることに気付くと鋭い眼差しを向ける。
強い思いだけは残っているのか、敵意を剥き出しにしていた。

「シキ、戻れっ」
ただならぬ気配を感じ、れい也はとっさにシキを戻す。
あおいはまた周りを見回し、れい也を見詰めた。
もう、その顔に笑みが戻ることはないだろう。
けれど、独房に入れられ、死刑を待つ身なのであれば、自分のゾンビにしてしまいたかった。

「あおい、これで、ずっと一緒だ・・・」
れい也はあおいに微笑みかけるが、反応を返してはくれない。
これからは弟扱いではない、忠実なしもべだ。
そう割り切り、れい也は平静な表情を向けた。